2012年4月23日月曜日

肥前精神医療センター - 臨床研究



 

当院の臨床研究部は、昭和61年に開設されて以来、各種精神障害の病態解明、およびその診断と治療に関する研究を進めてまいりました。とくに、精神疾患の神経化学的研究や心理療法のひとつである行動療法の応用と発展に関する研究では、先駆的な研究成果を挙げています。

現在の臨床研究部は、発達行動科学研究室、高次脳機能研究室、アルコール薬物依存研究室、社会精神医学研究室、司法精神医学研究室、精神看護研究室、および治験管理室より構成され、各研究室の室長の指導のもとに多くのスタッフが臨床のかたわら研究活動に従事しています。

その研究成果は、多くの論文や著書、および学会等に随時発表しておりますが、毎年6月に発行している研究業績年報において総覧することができます。

今後も私たちの研究成果が我が国の精神保健福祉医療領域の向上に寄与し、多くの患者様とそのご家族、および関連する専門家にとって大きな力となることを願ってやみません。

 

臨床研究部長 黒木俊秀

 

 

 

【発達行動科学研究室】 瀬口 康昌

発達行動科学研究室では、心理療法士・児童指導員といった心理職と医師が共同で研究を行なっています。その研究対象領域は二大別することができます。

 

ひとつは、強度行動障害を伴う動く重症心身障害児(者)の領域です。そして、もうひとつは、自閉症スペクトラム障害、注意欠如多動性障害、児童虐待、気分障害といった、児童精神科臨床で問題とされやすい疾患の領域です。これらの領域に関する効果的な治療技法の開発を中心とした、臨床研究を行なっています。
 


バック外側膝の痛み

当研究室で開発した、精神遅滞や注意欠如多動性障害をもつ子どもの養育者に対する行動療法的な集団心理教育プログラム(肥前親訓練プログラム、HPST:Hizen Parenting Skills Training)はその効果が検証されており、当院外来で継続的に施行されています。

また、自閉症スペクトラム障害への超早期介入に関する研究も現在準備中です。


 

【高次脳機能研究室】 橋本 学

アルツハイマー病や脳血管性認知症を始めとする認知症の予防は飲酒、喫煙、食生活などのライフスタイルや身体状況がどのように脳血管疾患や知的機能低下にかかわっているかを明らかにし、対策を立てることが重要です。
 

当研究室では認知症予防事業として平成9年から旧脊振村の40歳以上の方を対象に「脊振脳MRI健診」を行い、これまでに延べ1272名の方々に参加していただきました。
 

これまでに「頭部MRIと認知障害の関連」、「健常高齢者の大脳深部白質病変の成因」、「高齢者の無症候性脳梗塞の危険因子としての血漿ホモシステインについて」、「前頭葉機能と多発性ラクナとの関連」、「無症候性脳梗塞の発症と性差との関連」などの内容で国内外の論文、学会発表を行ってきました。健診結果については、神崎市役所脊振町支所で結果報告会を行い、地域の方々の健康維持に役立てていただいています。 
 


上昇CRPとスタチン筋肉痛

現在は、これまでの研究・活動を継続して行うと同時に、認知機能とQOLとの関係について検討し、それらの関係が各個人のパーソナリティによってどのように修飾されるかについて解析を行っています。また、高齢者の歩行機能と認知機能との関係についても解析を行い、軽度認知障害から認知症への進行を抑制するリハビリテーション開発の一助としています。
 

 

【アルコール・薬物依存症研究部門】 武藤 岳夫

アルコール・薬物依存症研究部門では、30年近くにわたる依存症治療の専門性を生かし、当該分野における先駆的な臨床研究を行っているのが特色です。
 

中でも、多量飲酒に対する治療的介入手法に関する研究は全国でも最先端を進んでおり、当院の杠が開発した「HAPPYプログラム」は、飲酒運転対策、特定保健指導にも有効なものとして大きな注目を浴びています。
 

また、薬物依存症に関しては、厚生労働省の研究班に長年所属し、絶えず全国規模の臨床研究を行っています。現在は「専門病棟を有する精神科病院受診者に対する認知行動療法の開発と普及に関する研究」として、多施設共同で薬物依存症の外来治療プログラムの開発と効果測定にあたっており、当院の「SHARPプログラム」は、治療困難な薬物依存症者の治療継続および再発予防に向け、成果を挙げつつあります。


 

【社会精神医学研究室】 佐伯 祐一

社会精神医学とは、一般的な精神医学的治療を可能にする様々な枠組みを、「社会」という言葉を重要なキーワードとしながら、詳細に検討していく分野です。
 

当研究室でも、そうした観点から、さまざまな問題にこれまでも取り組んできました。
 


水疱や足や足に傷

「精神科における行動制限に関する研究」「長期在院化の要因に関する研究」「精神科救急体制に関する研究」「ICF(国際生活分類)に基づく総合的評価に関する研究」など、未だ本質的な問題として議論が継続されているテーマに、早くから取り組んできました。
 

現在では、厚生労働省が提言する「入院中心から地域中心へ」というテーマを中心にして研究活動を行っています。
 

具体的には、「LOCUSという包括的評価尺度を用いた病病連携構築の試み」、「統合失調症の家族心理教育による再発予防研究」、「アウトリーチを中心とした新たな治療構造の開発」などに取り組んでいます。


 

【神経薬理化学研究室】 八尾 博史

神経薬理化学研究室では1970年代より統合失調症の病態解析を行うための動物モデルを用いた実験的研究を行ってきました。
 

最近では、うつ病のモデルにおけるストレス反応性や、治療抵抗性のうつ病を想定した非定型抗精神病薬と抗うつ薬の併用慢性投与の影響についての実験が進行中です。
 

また、臨床例(特に初発の統合失調症)におけるバイオマーカー検索も開始し、プロテオミクスの手法を用いて治療反応性に関連したタンパクの変動を観察しています。
 

この臨床研究は現在当院のデータベースを作製していて、今後の発展を期待しているところです。さらに内科的なテーマで、2つのレーザーを用いて血管閉塞と閉塞血管の再灌流が可能な脳梗塞モデルを開発しました。このモデルについては最近Cell Mol Neurobiol誌上(2011)で発表しました。脳の病気に対する生化学的・薬理学的な切り口から新たな臨床研究の方向性を探っていきたいと考えています。
 

 


【司法精神医学研究室】 須藤 徹

「司法」というのは、具体的には、精神鑑定や医療観察法での医療の実践を意味します。当センターは、たしかに、精神鑑定を数多く行っており、医療観察法の指定入院機関の指導的役割を果たしており、国内的にも、「司法」精神医学の専門施設の一つであると自負しています。
 

そういう意味では、司法精神医学の臨床研究でしょう。精神科臨床は、もちろん、診断と治療から成り立っています。
 

しかし、精神科臨床が精神という見えないものをめぐっての医療であり、しかも対象は本質的に個別事象である、という性質からいって、地域や医師によって医療の内容に関する偏りが避けられません。精神鑑定や、医療観察法の場においては、診断や判断能力判定をめぐって、全国規模での厳しい検証にさらされます。
 

必然的に、独善的ではいられない場なのです。こうした試練を経て「技を磨く」のが、司法精神医学研究室です。
 

 

 

 



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